建て替えではなく改修で「100年もつ団地」を目指している竹山団地16-2ブロック。2010年から2011年にかけて、建物全体の外断熱工事と、窓のサッシ交換でペアガラスを入れる工事を行いました。全住戸、ドアの交換なども含めて、工事費は2億円以上。果たして、その効果は実際どれほどのものだったのでしょうか?
改修からちょうど10年目となる2020年1月。外断熱とペアガラスの実力のほどを知るべく、座談会を開き、男女合わせて9名の住民の方々からリアルな声をお聞きしました。
—改修前と後で、どのような変化がありましたか?
「冬場、仕事を終えて家に帰ってきたときに、暖かさを感じます。(1階角部屋・Mさん)」
「以前は、夏の暑さが特に最上階で酷かった。3階から4階に階段を上がるだけで暑さが格段に違うほどでした。でも、屋上も断熱されたことで改善して、冷房がちゃんと効くようになった。(4階角部屋・Sさん、中部屋・Sさん)」
「はっきりとした数字は忘れましたが、電気料金表に一年前の同月との電気使用量の比較が出るでしょう。一年前の使用量と比べて、かなりのパーセント低くなったことを覚えています。電気代も減りました。(3階中部屋・Iさん)」
「うちは、温度計があって、冬場の室温が3度も上がっていましたね。(2階中部屋・Oさん)」
住んでいる階数や部屋の位置に関わらず、誰もが快適さを実感していることが伝わってきます。しかしこんな意見もありました。
「以前は、押入れの中などに、湿気がこもり、カビがすごかったんです。それがなくなったのが嬉しい。でも、その代わり、冬に窓が結露するようになって。だから、うちでは夜にタオルを巻いて窓の下に置いて水を受けるようにしました。毎朝起きたら、そのタオルで窓を拭いています。(1階角部屋・Nさん)」
それを聞いて他の部屋の住人たちからは、うちは結露しないのに……!?と驚きの声が上がりました。そして、住まいの構造に詳しいAさんからは、換気が足りないのではないか?とのアドバイスがすかさず入ります。同席していた一般社団法人団地再生支援協会の奥茂謙仁さんからは、さらに詳しく、外断熱の仕組みの説明がありました。
「外断熱は、窓以外の壁、建物の周りを天井と床も含めてぐるりと断熱材で覆います。内断熱、つまり柱の内側に断熱材を入れる方法に比べると非常に気密性が高く、断熱の効果が高いです。結露というのは、内と外の温度差が激しいと起こる現象なので、部屋の中で外気と触れる窓に結露が集中しやすくなります。換気が重要という指摘はその通り。十分に断熱された部屋では、こまめな換気をして空気を循環させ、室内の温度差がなくなるように心がけると、押入れのカビなどがなくなります。ちなみに、断熱材で保護されることで、壁のコンクリートそのものが長持ちします。コンクリートは外の気温に影響されやすく、夏の太陽で一度熱せられると熱いまま夜まで熱を保ち、輻射熱を発するので、冷房の効きが悪くなります。冬場は冷えると冷えきったままで、逆に室内の熱をどんどん奪っていきます。その激しい熱の移動が、断熱材のおかげで抑えられるので、快適な室温が保たれるわけです。」
—なるほど、断熱の大まかな仕組みがよくわかりました。窓の結露の問題は換気によって解決できそうですね。他に、暮らし方で工夫している点はありませんか?
「以前は、エアコンが3台各部屋にあったけど、今は1台だけ使い、扉を全部開けています。だから、家中ほぼ同じ温度です。急な温度変化で起こるヒートショックの予防になっていると思います。料理やお風呂の湿気がたまらないように換気扇を回したり、ペアガラスのサッシについている小窓を開けています。エアコンを使うと空気が乾燥するから、結露しないという効果もあるかもしれません。さらに、もしもの停電に備えて、灯油ストーブを買いました。(2階中部屋・Aさん)」
—室温が17度!それはすごいですね!そもそも暖房がいらないくらいですね。
「4階だと、室内の奥まで日が入るから、もともと冬場は割と暖かかったけれど、今では昼間に家にいても、ほとんど暖房は使いません。夏は日差しが高くて逆に室内には日があまり入らないし、外断熱されているから、外の暑さも入ってこないようになっています。(4階角部屋・Sさん)」
—冷暖房費が自然に節約できて、かつ、快適さを実感できているんですね。ペアガラスの効果に関しては、どうでしょうか?
「音が遮断されるから、とても静かになって、通りの車の往来の音が気にならなくなった。(一階角部屋・Nさん)」
遮音性の高さについては、みなさん一様に感じていることのようです。そして意外な効果としてもう一つ「防犯性が高まったこと」が挙げられました。
「改修以前のシングルガラスの時代には空き巣被害が時折あったんですが、そういえば、改修以後ゼロになりましたね!」と管理組合理事長のIさんもニコニコ顔です。
海外、特に欧米では、住まいの評価の中で、断熱性能は非常に注目されています。東日本大震災をはじめとする度重なる自然災害で、少しずつ意識は変わってはきましたが、日本では住まいの断熱が重要という認識が一般に行き渡っていません。不動産業界や建築業者が、その価値を評価してこなかったのも大きな理由の一つです。消費者の側も、建物の構造を気にする人が少ないという指摘もありました。座談会中、唯一、改修後に引越しをしてきたというNさんは、不動産屋から、「この部屋は断熱がしっかりされているから」というアピールは特になかったと話していました。
「引っ越してきてから、あ、住みやすいと、はじめて気がつきましたよ。これからは温暖化の影響で、夏の暑さも問題になってくるから、夏涼しいということも、もっとアピールしていいと思いますね。(2階角部屋・Nさん)」
夏のクーラーの使い方については、どの部屋でも、夏場のクーラー使用回数や時間が劇的に減ったという声が上がりました。全く使わなくなった人もいますが、朝少しだけ使うとか、夜間に使用して朝は使わなくなったとか、それぞれの暮らし方や体質に合わせて、室内が冷えすぎないように調整しているようです。
2021年で築50周年を迎えるという竹山団地。しかし、ここまでの断熱対策を既に実施している団地の例は少なく、とても先進的で、世界基準を意識した団地といえるでしょう。購入した後に、個人でリノベーションと合わせて断熱工事もするとなると資金負担もグンと増えます。断熱性能がデフォルトで整っているというのは、他に変えがたい大きな魅力ですね。
この、外断熱とぺアガラス交換の大規模改修を実現した背景には、住民自らが責任を持って住まいの管理する仕組みをつくり、住民同士が話し合える場を地道に作ってきた経緯があります。そうしたプロセスに興味がある方はこちらのページもご覧ください。
※1:ガスFF式暖房の、FFとはForced Flue(強制通気)の略です。電動ファンなどで強制的に給気と排気を行う暖房システムです。暖房機の背面から出ている吸排気管が、壁を貫通して屋外に出ているので、排気と共に自動的に換気もされる仕組みになっています。
取材・執筆:梅原昭子 (森ノオト http://morinooto.jp)
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